
外国ではみんなそうなんですね。日本では、音楽家たちが先に集まってオーケストラをつくって、一生懸命になって後からお客さんを集めるということをやるわけですけれども、ヨーロッパあたりではそうではありませんで、まず初めに、例えばある町なら町、ある市なら市で音楽の好きな人が集まって、向こうの市ではすごくいいオーケストラやっているんだけれども、うちの市にはオーケストラがないから、何とかしてみんなでオーケストラをつくろうじゃないかというような話になって、まずみんなで金を集めて、理事会が先にできちゃうわけです。先にできちゃうと、その人たちがマネージャーを雇ってきて、それで、オーケストラを編成してくださいよといってオーケストラができる。 大分話が脱線したんですが、岩崎小弥太さんは、ヨーロッパ流に先ず東京フィルハーモニー協会という鑑賞団体をつくられました。そして聞きたい人が集まったところへ東京フィルハーモニー交響楽団というオーケストラを山田耕筰さんを指揮者としてつくったんですが、実はこれは1年ぐらいでつぶれてしまうんですね。その1年ぐらいでつぶれた理由はなぜかというと、もちろん岩崎さんが自分でお金を出してオーケストラをやっていたので、オーケストラの運営そのものはできたんだけれども、そのうちに、やはりヨーロッパと同じようにホールを持たなければいけない、ホールを何とかして持とうじゃないかということになった。ホールをつくるのに80万円かかる計画書をもって寄附金を集めようというので、財界じゅうを駆けめぐられたら、80万円というのは当時としては天文学的な数字でしたので、これはもう岩崎さんの道楽もちょっとついていけないと悪口を言われて、それで結局挫折をしてしまって、オーケストラは1年でつぶれてしまったということがあります。 結局、経済的な理由から我が国ではソフトとハードとが結びつかなかったんだというふうに思うのですが、それは未だに続いており、つまり芸術団体は、自分で何か自主公演をするときにはホールを借りなければならない。ホールの方は、自主公演をするときには芸術団体を頼んでこなければならないという事情が日本では生じてきているわけです。音楽会、つまり音楽の普及活動、創造活動は、我が国では、今までは割と放送局ですとか、新聞社ですとかが、担ってきたという歴史があるのですが、これがここ10年ぐらいの間に急激に、地方自治体のつくりました文化施設が激増して、ホールによって支えられるという時代がやってきた。これは恐らく21世紀に入ってますます盛んになり、我が国の、つまり音楽文化の一端を担うのは地域のホールということになることは、もう間違いない状況だというふうに思います。
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